大阪市立小学校児童いじめ問題

目次
1.事件の概要
(1)いじめ行為と小学校らの対応
(2)不登校後の小学校らの対応

(3)第三者委員会の設置
2.調査結果報告
(1)いじめの認定
(2)小学校の問題点
(3)教育委員会の問題点
3.調査の問題点
4.今後の対応

1.事件の概要

(1)いじめ行為と小学校らの対応
本件被害児童は、平成20年に大阪市内の小学校に入学してから、同校の複数の同級生からいじめを受けてきました。
6年生になってから、同級生等によるいじめが悪化したため、保護者は、小学校、大阪市教育員会らに対して、加害児童の言い分だけでなく被害児童の話も聞き、いじめ事実の調査をすること、いじめに対して加害児童への注意・指導等適切な対応をすること等を求めてきました。
しかし、小学校らの適切な対応がなされないまま、度重なるいじめに被害児童の精神状態も限界に達し、平成25年11月から小学校へ通うことが出来なくなってしまいました。

(2)不登校後の小学校らの対応
保護者は、小学校、大阪市教育委員会に対して、被害児童の安全確保策及びいじめの事実に対する調査、調査結果に基づく指導策の立案と実行の申入れを行いました。
これに対して、小学校は、極めて不十分な事実調査報告と抽象的な対応策を内容とする回答をしました。この事実調査は、それまでに被害児童から聞き取っていた内容をほとんど考慮せず、加害児童の言い分だけを尊重したような内容でした。
また、大阪市教育委員会からは何の回答もありませんでした。

(3)第三者委員会の設置
そこで、保護者は、大阪市に対して調査を求めたところ、平成26年3月27日、大阪市橋下徹市長は、第三者委員会を設置すると発表しました。
本件は、大阪市立桜宮高校の男子生徒が男性顧問の体罰後に自殺した問題を契機に制定された「市長が重大ないじめや体罰の調査を指示できる条例」が初適用された事例となりました。

2.調査結果報告  

(1)いじめの認定
平成28年5月10日、第三者委員会による調査結果が報告されました。
その調査報告書では、プールでゴーグルを隠す、プールから上がれないように両手で押したり蹴ったりする、標準服のズボンを隠す、校舎内で殴る蹴るの暴行を加える、写真を傷つけるといったいじめが認定されました。
そして、その他のいじめについては、「十分な証拠がなく、認定には至らなかったが、他にいじめ行為がなかったとすることはできない。…本児に対するいじめはかなり根深いものであったと考えられ、本児は11月8日から学校に登校していないが、その後も事態はほとんど改善されていなかったと考えられる。」と判断されました。

(2)小学校の問題点
また、小学校に対しては、保護者からの求めに対する対応が遅れたことで、保護者との深い溝が生まれ、また、児童集団への的確な介入と指導が為されなかったことが、さらに被害児童への嫌がらせや排除をエスカレートさせる結果となったこと、管理職のリーダーシップの問題点について言及がありました。

(3)教育委員会の問題点
さらに、教育委員会に対しては、本件に対する関与・介入・助言に関して、ある一貫した方針のもとに指導主事が動くといった顕著な取り組みが窺えなかったこと等が指摘されました。

http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/jinji/0000358951.html
(大阪市ホームページ)

3.調査の問題点

第三者委員会の調査は、事件発生から約2年後に開始されたことから、調査報告書でも事実の調査が困難であったとされています。それゆえ、具体的に認定されなかったいじめ行為が多々ありました。
この点、いかにいじめ調査はいじめ発生後速やかに行われるべきかを表していると言えます。
ただ、第三者委員会が、具体的に認定できなかったいじめ行為について、「認定できなかった」というだけでなく、上述のとおり、「なかったと考えるのではなく、いじめは根深いと考える」という見解を示してくれたことには、被害児童も保護者も救われる想いでした。

4.今後の対応

第三者委員会による調査により、いじめ行為の存在、小学校や教育委員会の対応の問題点は明らかとされました。
ただ、そうであるからといって、自動的に被害児童や保護者が受けた損害が回復されるというものではありません。
被害児童や保護者は、小学校や教育委員会に、いじめ被害を訴え続けたにも関わらず、適切な対応をしてもらえなかったどころか、小学校の関係者は、「いじめはなかった」と取れるような発言を第三者へ伝えたようです。
これが噂話として広がり、これを信じた子ども、学校関係者や保護者、地域住民から、この3年間、「いじめがなかったのに、嘘をついている」「不登校になったのは、親が学校にいかせなかったからだ」などと、被害児童や保護者が白い目で見られ、その尊厳や名誉を傷つけられてきました。
被害児童や保護者は、傷つけられた尊厳や名誉を回復するべく、小学校や教育委員会に対して、当事の関係者による謝罪、保護者等に対する報告書の内容の周知等を申入れをしていますが、教育委員会からはこれを拒否する趣旨の回答が返ってきています。今後も申し入れを継続して、一日も早く、被害者が保護者の尊厳や名誉が回復されるようサポートを続けてまいります。

この記事を書いた人

吉原稔法律事務所