愛知県半田市の公立小学校の女性教諭が、2020年12月半ばころ、不登校傾向にある低学年の男子児童宅に登校を促すために訪れ、保護者が不在の中、「行きたくない」と言う男子児童を車に乗せて学校に連れ出すという信じられない報道に接しました(2021年6月21日7時44分配信の朝日新聞DIGITAL)。
記事によれば、女性教諭は、「登校するきっかけをつくりたかった。」と弁解しているとのことですが、嫌がる児童を無理やり車に乗せて学校に連行することがどうして「登校するきっかけ」になるのか誰もが理解に苦しむところだと思います。
しかし、筆者は、この記事を読んだときに、「あれ?どこかで似た話を聞いたことがあるぞ。」という思いを抱きました。どこだったかなと思い出そうとして、筆者が担当しているいじめ不登校訴訟での被告の主張のことだと思い当たりました。
この訴訟は、さいたま地方裁判所で川口市を相手にしている裁判です。いじめによって不登校になったまま卒業することになった男子生徒が、学校や教育委員会が不登校を解消する義務に違反したなどと主張しています。
この裁判では多くのことが問題となっていますが、その中の一つとして、川口市教育委員会が、保護者の要望や文部科学省の度重なる指導にも関わらず、長期間にわたって重大事態調査に着手しなかったということが問題になっています。川口市教育委員会が重大事態調査に着手しないことについては、文部科学省も「3ケ月不登校であり、重大事態として対応していくべき。重大事態として対応しないのであればその理由を教えていただきたい」などと、早急に着手するようにとの指導を繰り返していたことが裁判の中で明らかになっています。これに対する川口市教育委員会の弁解が、「まずは登校させる指導をするため、不登校として動いた」というものです。この言葉の背後には、まずは登校させればあとはどうにかなるという神話にも似た考え方があるように思われます。川口市教育委員会自身も、「お子さん自体の心の傷は登校すれば何とかなると思ってしまった」との反省の弁を述べています。
愛知県半田市の女性教諭の記事を読んだときに、筆者が、「あれ?どこかで似た話をきいたことがある」と思ったのは、件の女性教諭も川口市教育委員会と同じように、とにかく登校さえすればどうにかなると考えたのではないだろうかと感じたからでした。 筆者自身も、不登校になってしまった子どもの登校再開支援をした経験が数度ありますが、とりあえず登校すればどうにかなるというような荒療治をしたことは一度もないです。不登校になっているからには、何らかの重大な原因があり、その原因に即した丁寧な対応が必要なのです。学校の教職員に対する信頼感を失っているケースが大半ですので、時間をかけて信頼感を取り戻す必要もあります。登校再開はそれからの話です。また登校再開にあたっては、再開初日やその後の注意点や段取りも綿密に打ち合わせる必要があります。
愛知県半田市の女性教諭が不登校の原因分析をどこまで行っていたかは、記事から読み取ることはできませんが、恐らくは原因分析はそっちのけで、とにかく登校さえすれば楽しいこともあるだろうし、そうなったら自然と不登校もなくなるだろうくらいの軽い気持ちだったのではないかと思います。
不登校というのはそんなに簡単な問題ではないということを、学校の先生方にはもっと強く認識してほしいと思いますが、残念ながらそのような研鑽意欲のない先生もたくさんいるというのが実情です。そうである以上は、文部科学省あたりが研修の制度を充実させる等、制度的な取り組みも必要なのではないかと思います。また、マスコミや国民の皆さんがこうした問題に関心を持っていただくことも、制度を作り上げていくためには大切なことであると思っています。