相続土地国家帰属制度について

1.はじめに

弁護士として相続の相談を受けていると、「相続したくない土地があるがどうしたらいいか?」という相談に接することが結構ちょくちょくあります。たいていは、遺産の中に農地や山林が含まれるケースです。いずれも用途が限られており、相続しても無用の長物どころか、管理の負担ばかりかかるので相続を避けたいということのようです。このような場合、相続人間でその土地を誰が相続するかについての協議がまとまればよいのですが、協議がまとまらない場合は結局放置されてしまうということになってしまうケースが発生します。そして、その後さらに相続が重なると、やがて誰が所有者なのか分からない、分かっても連絡をとることが困難という状態に至ってしまいます。そこで、こうした土地の発生を予防する観点から、2021年4月28日、相続土地国家帰属法が成立しました。同法によって新たに創設された相続土地国家帰属制度について紹介します。

2.申請

相続土地を国家に帰属させたい者は、法務大臣に対して申請を行って承認を得る必要があります。申請することができるのは、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)によって土地の所有権の一部又は全部を取得した者です。自らの意思で土地を取得した者は申請することができません。例えば、相続人以外の者が遺贈により土地を取したケース、死因贈与によって土地を取得したケースなどです。自らの意思で取得した土地については、国がその土地を取得して国民負担で管理する必要性が低いと考えられるからです。土地が数人の共有に属する場合(数人で相続した場合)は、共有者の全員が共同して申請する必要があります。

3.土地の要件

次のような土地は法務大臣の承認を得ることはできません。
(1) 通常の管理又は処分をするに当たり、過分の費用又は労力を要する場合(詳細は政令で定められますが、危険な崖地、果樹園、管理の障害となる有体物が地下にある土地などが想定されます)
(2) 土地上に建物が存する場合
(3) 担保権又は使用収益を目的とする権利が設定されている場合
(4) 通路その他の他人による使用が予定される場合(詳細は政令で定められますが、ため池や境内地などが想定されています)
(5) 土壌汚染対策法に規定する特定有害物質により汚染されている場合
(6) 所有権界が明らかでない場合など所有権の存否、帰属、範囲について争いがある場合

4.負担金の納付

法務大臣の承認が得られた場合、承認申請者は、負担金を納付する必要があります。負担金の納付は、負担金額の通知を受けた日から30日以内にする必要があり、これを徒過した場合は、承認の効力が失われます。負担金の額は、管理に要する10年分の費用を考慮して算定されることになっています。参考として、現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野が約20万円、市街地の宅地(200㎡)が約80万円くらいであるとされています。負担金を納付した時点で土地の所有権は国に帰属します。

5.法律の施行日

2023年4月28日までに施行されることになっていますが、具体的施行日は本項執筆時点に おいて未定です。

この記事を書いた人

吉原稔法律事務所