滋賀県高島市小6女児いじめ事件

目次
1.学校及び教育委員会に対する申入れ内容
2.申入れの狙い
(1)いじめ防止対策推進法に対する評価
(2)いじめ防止対策推進法の運用状況
(3)いじめ防止対策推進法の活用を
3.この文書を読んでくださった皆さんへ

1.学校及び教育委員会に対する申入れ内容  

平成28年10月、滋賀県高島市内の小学校に通う6年生の女子児童が、同級生からトイレ掃除中に掃除道具で床の水を足元にかけられたり、身体測定のときに背が低いことをからかわれるなどのいじめを受け、同市内の病院で心身症を発症しているとの診断を受けて入院したことが、新聞報道により明らかとなりました。
当事務所は、この事件について、被害者側代理人に就任し、被害女児の通う小学校長及び高島市教育委員会委員長に対して、次の申し入れを行いました。
①いじめ防止対策推進法23条4項に基づき、加害児童を被害児童の通う教室外において学習を行わせること。
②いじめ防止対策推進法25条に基づき、加害児童に対して、学校教育法11条による懲戒を加えること。
③いじめ防止対策推進法26条に基づき、加害児童に対して、学校教育法35条による出席停止命令の措置が取られること。
④いじめ防止対策推進法28に基づき、被害者サイドの意向を十分に尊重し反映した調査を実施すること。

2.申入れの狙い  

(1)いじめ防止対策推進法に対する評価
上記の申入れ事項を見ていただければ一目瞭然ですが、今回の申入れの特徴は、いじめ防止対策推進法にしつこいくらいこだわっている点にあります。いじめ防止対策推進法は、平成23年に発生した、大津市中2いじめ自殺事件をきっかけとして議員立法として成立した法律です。日本で最初のいじめ対策のための法律であり、いじめの未然防止、いじめの早期発見、いじめへの対処について、学校、教育委員会などの関係者の役割を定めています。第三者委員会が必ずしもいじめの有無そのものについて調査しなくてよいとされているなど不十分な点も数多く指摘することができますが、いじめ対策として注目すべき方向性も含んでいると評価できます。
例えば、上記申入れ事項①と③はいじめ対策として注目すべき取組みであると評価できます。当事務所でも数多くの経験がありますが、いじめが発生した場合に学校の先生方は当事者を仲直りさせようとするケースが少なくありません。加害児童と被害児童を握手させたり、ハグさせたりして、被害児童に対して「もういいな?明日から学校にこれるな?」などとやるわけです。大津中2いじめ自殺事件でも担任教諭は加害生徒と被害生徒にハグさせるということがありました。しかし、このやり方によって解決を得ることができるのは、多くの場合、教師と加害生徒だけであり(教師は「やれやれこれで一件落着だ」と思うことができ、加害児童は「よしこれで無罪放免だ」と安堵する。)、被害生徒は教師に対する落胆の気持ちを抱えさせられて放置されることになります。これによって被害生徒・児童が絶望感・孤立感を深めてしまうことも数多いだろうと思われます。こうしたやり方は「修復的アプローチ」などの名で呼ばれることもありますが、いじめ事案に適用する際は、かえって二次被害をもたらす危険性に十分留意しなければならないのに、実際には慎重さを欠いた安易な形で運用されているのが実態なのです。
しかし、いじめられている被害者が多くの場合に学校や教師に望むのは、加害者との仲直りなどではなく、自分に安心を与えてくれることや自分を守ってくれることだと思われます。自分に対して物理的・精神的攻撃を仕掛けてくる加害者を制圧し、できれば学校から排除してほしいと願うのが普通だと思われます。上記申入れ事項①及び③において根拠として引用したいじめ防止対策推進法の条項は、まさしくこうした被害児童・生徒の心情に適合するものです。いじめ被害者の心情に可能な限り寄り添おうとする立法者の意図がにじみ出た条項と見ることもできるでしょう。

(2)いじめ防止対策推進法の運用状況
しかし、これらの条項がこれまでいじめ事案において適用されたというケースを耳にしたことはありません。大津中2いじめ自殺事件後も、いじめ防止対策推進法成立後も数多くのいじめ事案が発生し、悲劇的な結末に至ったケースもたくさんあります。しかし、いずれの事案においても、いじめ防止対策推進法に基づいた、加害者に対して厳格な対処がなされたというケースは聞いたことがありません。このことは、今回の高島市小6女児いじめ事件についても同様です。被害女児は加害児童に対する恐怖心から心身症を発症し、登校することもできず、楽しみにしていた修学旅行に行くこともできませんでした。被害女児やその保護者が、「どうして私たちはこんなに苦しいのに、あの子たちはあんなに楽しそうにしているの?」という感情を抱いたとしても、それは当然の感情として理解することができます。「加害児童にも学習権があるから」という建前論を頭で理解していても、感情的に割り切れないのが被害者側の心情というものです。

(3)いじめ防止対策推進法の活用を
ともあれ、加害児童にも学習権があるにせよ、現実の結果としては、いじめられた被害者側が教室から排除されているという形が生まれてしまっているのが、本件の現状です。しかし、これは不条理だというべきです。このような不条理は、いじめ防止対策推進法の上記条項が適切に適用されることによって、いくばくかでも解消されるのではないかと当事務所では考えています。冒頭の申入れは、このような思いを込めて行いました。いじめ防止対策推進法が学校現場において全く生かされていない現状に問題意識を持ち、この問題に一石を投じたいという気持ちを込めたものです。

3.この文書を読んでくださった皆さんへ

そして、この文章をHPに掲載したのは、みなさんにも一緒にこの問題を考えてほしいという願いを込めてのことです。みなさんが、いじめの問題について考えてくださることに繋がれば嬉しく思います。

この記事を書いた人

吉原稔法律事務所